※2021年8月31日更新

新型コロナウイルスのワクチンについて、地域住民の方に講演をさせていただきました。最新のデータをもとに、現状分かっていることや今後の課題などをお話しいたしました。ここでは、講演内容の詳細を記載しております。

家族で集まる、友達と食事をする、そういった当たり前の日常が、新型コロナウイルスの流行で奪われてしまいました。

日本人のほとんどがマスク着用、手洗い、3密を避けるといったことをしてきましたが、第4波を目前にして、そういった対策に限界が見えてきたように思います。新型コロナウイルスから自分と家族を守り、日常生活に戻る最善の方法は、ワクチン接種です。

ワクチンの原理

免疫では抗体が重要な役割をもつ

体に入ってきた「異物」を除去しようとする働きを、免疫と言います。免疫をひき起こす異物を抗原といい、細菌やウイルスだけでなく、花粉症や食べ物も抗原になることがあります(特定の抗原に免疫反応が強く出すぎのが、アレルギーです)。

抗体とは抗原に引っ付くタンパク質です。IgM、IgG、IgA、IgD、IgEといった様々な種類の抗体があり、体の各所で抗原から体を守っています。抗体は、主に3つの働きで免疫をより効率的に動かします。

  • 中和作用:ウイルスや細菌が出す毒素を囲い込み、中和する。
  • 細胞破壊:直接細菌にとりつき、他の免疫物質(補体)と共に細菌を破壊する。
  • オプソニン化:細菌にとりついて目印となり、細菌を食べる免疫細胞(好中球やマクロファージ)を呼び寄せる。

ワクチンの主な目的は抗体を付けること

ワクチンは体の中に抗原を注入します。体に入った抗原は、単球や樹状細胞といった細胞に捕まり(貪食と言います)、リンパ節に運ばれていきます。リンパ節では抗体を作ることができるT細胞やB細胞が存在し、運ばれてきた抗原に合わせた抗体を作り出します。

生きたウイルスや細菌をそのまま体に注入しては危ないので、体に注入しても安全なように様々な処理をしています。処理の仕方によって、ワクチンの種類が分けられています。

  1. 生ワクチン:毒性を弱めた病原体が、体内で増殖しようとする過程で免疫が付きます。基本的にはほとんど症状は出ませんが、免疫が特に弱っている方や妊娠中の方では、毒性が弱い病原体でも危険なことがあるため接種できません。
  2. 不活化ワクチン:死んだ病原体を抗原として用います。
  3. リコンビナントワクチン:病原体の一部のみを抗原として用います。
  4. トキソイドワクチン:病原体が生み出す毒素を抗原として用います。

今まではこれら4種類のワクチンが用いられてきましたが、新型コロナワクチンは新しい技術が使われています

  1. mRNAワクチン:mRNAという遺伝子を、特殊な処理をしてコーティングしたものを抗原として用います。(ファイザー、モデルナ)
  2. ベクターワクチン:人体に無害なウイルスの中に、遺伝子やたんぱく質などを注入したものを抗原として用います。(アストラゼネカ)

mRNAワクチンの開発は30年前から

mRNAワクチンは新しい技術と言われていますが、開発自体は30年前に始まりました (RNA Biol. 2012; 9: 1319–1330.)。mRNAは非常に壊れやすく、保存が難しいため、実用化にいたるまでに大きな壁がありました。

人を対象としたワクチンとしては、10年前から研究が始まりました。インフルエンザ、狂犬病、HIV、ジカ熱といった感染症を対象に開発が進んでいます。

mRNAはタンパク質を作るための設計図

細胞には核があり、核の中には遺伝情報がDNAとして蓄えられています。DNAから転写という作業を通し、mRNAが作られます。mRNAはタンパク質の設計図であり、mRNAにある情報をもとに翻訳という作業で様々な種類のタンパク質が作られます。タンパク質は人体のあらゆる場所で材料として使われます。

mRNAワクチンはウイルスのタンパク質を人体中で作り出す

新型コロナウイルスには、スパイクという人間の細胞に引っ付くタンパク質があります。mRNAワクチンでは、このタンパク質を標的にした抗体を作り出すことを目的にしています。

https://www.kao.com/jp/hygiene-science/expert/new-coronavirus-knowledge/characteristics/より

ワクチンで接種するmRNAは、コロナウイルスのスパイクの設計図となるよう作られています。人体に注入されたmRNAは、細胞の中に入ります。その後、人体の細胞が翻訳によってスパイクを作り出します。スパイクは体にとって異物ですので、抗原として免疫細胞がリンパ節に運び、抗体が作られます。

mRNAは長くても数日で体から除去され、遺伝子情報が蓄えられている核にも入ることができないため、人体の遺伝子には全く影響しません。

ベクターワクチンの開発は40年前から、エボラウイルスでの成功例も

ベクターワクチンは40年前から開発が始まりました(Vaccines (Basel). 2020;8: 680.)。生きたウイルスの中に遺伝子を入れるのでmRNAワクチンより保管の問題は少ない一方、無害なウイルスを作り出すのが難しいとされます。現在ではエボラウイルスで開発に成功しており、高い効果を示しています。

ベクターワクチンは無害なウイルスを体に注入し、遺伝子を細胞に送り込む

ベクターワクチンはmRNAワクチンとは違い、遺伝子(DNA)を無害なウイルスに入れ込んでいます。アストラゼネカ社のワクチンは、無害にしたアデノウイルスを

ワクチンで注入されたウイルスは細胞に感染し、中へ入り込みます。その後、ウイルスの中のDNAを核に運びます。このウイルスはDNAを核に運ぶ役割をしているため、ベクター(運び屋)ウイルスと呼ばれます。

核の中に入ったDNAから転写によってmRNAが、mRNAからは翻訳によってタンパク質(スパイク)が作られます。その後はmRNAワクチンと同様に、スパイクは抗原として免疫細胞によってリンパ節まで運ばれ、抗体が作られます。

ワクチンの効果と安全性

新型コロナワクチンを打つと、大部分は重症化しなくなる

ファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンは、当初は90%以上と感染を防ぐとされました。しかし、現在流行しているデルタ株では、感染予防の効果は減弱するとされます。

2021年8月27日に公開された、デルタ株が主流となった米国からの報告をご紹介します。ワクチンの感染を防ぐ効果は79.8%へ低下したそうですが、入院などの重症化は防ぐ効果は現在でも90%以上と高い効果が保たれていたとのことでした。英国でも同様にデルタ株が主流となっていますが、アストラゼネカ・ファイザーともに90%以上の入院を防いだと報告されています。

また、各社のワクチンともに重症化を防ぐ効果は数か月経過しても非常に高いとされます

副反応は他のワクチンよりやや多い

ワクチンの種類や年齢にもよりますが、副反応はやや多いと報告されています。

  • 打った部位の痛み:80%
  • だるさ:60%
  • 頭痛:44%
  • 寒気:46%
  • 発熱(37.5℃以上):33%

インフルエンザワクチンのように赤くはれる人は比較的少なく、1%程度と報告されています。

アナフィラキシーはまれ、起こったとしても全例回復している

アナフィラキシーの発症頻度

-ファイザー:10万人に1人

-アストラゼネカ:100万人に1人

-モデルナ:40万人に1人

とされており、発症自体はまれです。また、全員が回復しており、死亡した方はいません。

重い副作用の可能性について

アストラゼネカJohnson&Johnson製のワクチンでは血栓症(大きな血の固まりができて、血管がつまる病気)が報告されています(N Engl J Med 2021; 384:2092-2101, CDC)。50歳未満の若年女性で、抗 PF4/ヘパリン複合体抗体(HIT 抗体)を持つ方に多いとされます。血栓症の副作用は非常にまれであり、新型コロナウイルスに感染すると高い確率で血栓症が起きるため、ほとんどの国で接種は推奨されています。

ファイザーやモデルナ製のワクチンでは、主に16-24歳未満の男性で心筋炎(心臓に炎症が起きて、心臓の機能が落ちる病気)や心外膜炎(心臓を囲む膜に炎症が起き、心臓がうまく広がったり縮んだりできなくなる病気)が増える可能性が報告されています。ほとんどが治療の必要がない軽症で、発症頻度もとても低いです新型コロナウイルスに感染し重症化するリスクを考えると、ワクチン接種が望ましいと推奨されています。

本邦では、接種後に脳出血で亡くなったという痛ましい事例が報告されています。

ワクチンとの因果関係は不明と結論されていますが、接種から発症までの日数を考えると、原因ではない可能性が高いと考えます。アメリカの報告でも、ワクチン接種者と非接種者で脳出血の発症頻度は同程度とのことであり、関連性は低いと考えられます。

ワクチンと関連性はなくても、接種後の死亡・入院は全例報告することになっています。たくさんの方に接種をする中で、偶然同時期に病気にかかる人は出てきます。そのため、「ワクチン接種後に入院した、死亡した」といった情報に振り回されず、関連性の判断は慎重に行う必要があります。

ワクチン接種を強くお勧めします!

新型コロナ感染症の死亡率は改善しましたが、デルタ株の流行に伴い基礎疾患のない若年者でも重症例が各地で報告されています

一方、ワクチンが原因で亡くなった方はいません。利益(感染予防や死亡率の減少)と害(副反応)のバランスを考えると、現状では利益が大きく上回っています。変異株の流行で急激に感染者が増える可能性もあり、接種を強くお勧めいたします

最後に、ワクチンについてよくある疑問と回答を記載いたします

ワクチンについてよくある疑問

短期間で開発したのに、安全性はきちんと検証している?

新型コロナワクチンは1年という短期間で開発されました。今まではおたふくかぜの4年間が最短記録なので、非常に速いペースで開発が進みました。

開発に当たっては、他の薬剤と同様に必要な検討はすべて行われており、安全性は十分に検証されています

通常であれば数万人規模の研究参加者を集めるのに数年間かかりますが、新型コロナワクチンでは数か月で研究参加者を集めることができたので、開発から実用化までがとても早く進みました。また、新技術を使ったことで、安全な抗原を短期間で作れたことも、開発が速く進んだ要因とされます。

ワクチンを打ってどれくらいで免疫が付く?

2回目の接種から2週間程度でしっかりと免疫が付くとされます。

ワクチンが原因でコロナになる?

ワクチンではあくまでコロナの一部(スパイク)を作るだけなので、ワクチンが原因で感染することはありません。また、PCRや抗原検査の結果にも影響しません

ワクチンは人体の遺伝子に影響する?

人体の遺伝子には影響しません。mRNAは核に入らず、数日で体から消失します。ベクターワクチンはDNAが核の中に入りますが、人体のDNAに組み込まれることはありません。

妊娠中でも接種できる?

ワクチンの性質から妊婦でも安全に使えると考えられています。妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすく、早産の原因となる可能性が指摘されています。一方、ワクチンを接種することで赤ちゃんに影響が出たとする報告はなくお母さんの副作用の頻度も妊娠していない方と同等とされます。

コロナに以前感染したけど、ワクチンを受けた方が良い?

感染後は抗体が徐々に低下し、再度感染することがあります。ワクチンを接種したほうが感染した際よりも高い抗体価が付くとされており、接種が推奨されています。

ワクチンを受けた後、マスクは不要?

デルタ株の流行に伴い、ワクチン接種後にも感染する事例が見られています。特に3密の場所やワクチンを受けていない人に会う場合は、マスクをした方が良いと考えます。

投稿者プロフィール

明石 祐作 Yusaku Akashi, MD, PhD
あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。