日本人の30人に1人が便秘とされ、年齢を重ねるにつれその割合は多くなります。よくある症状なので簡単に考えられがちですが、改善するにはちょっとした知識が必要です。
この記事では、便秘を解消する食べ物・生活習慣・治療薬について、誰にでもわかりやすく説明します。
目次
便秘を改善する生活習慣
・我慢しない
腸は食後に最も活発になり、便が出やすくなります。便意をもよおしたら我慢せず、排便することが大切です。
・朝にカフェインをとる
腸の運動を促すため、朝にカフェインを含む飲み物を飲むのは効果的です。
・便秘を改善する食べ物をとる
食物繊維をたくさん含む食べ物や、キウイフルーツ、プルーン、サイリウム(オオバコ)、ヨーグルト、グアーガム分解物(PHGG)などが効果的とされます。詳しくは下段を参照してください。
・有酸素運動をする
運動不足だと食物繊維をたくさんとっても便通は改善しません。定期的に運動(特に有酸素運動)をすると、食物繊維の効果が高まります。
若い女性で体幹ストレッチでは、あまり便秘は改善しないと報告されています。お腹のマッサージは便通を良くすることがあり、1日15分・週5回つづけると効果的とされます。
・水分をしっかりとる
水分摂取は大切ですが、食物繊維を摂ることが大前提です。
食物繊維を十分にとっている場合は、1日2L以上の水分をとると便秘が改善します。食物繊維が不足したままでは水分をたくさんとっても便秘はよくなりません。
便秘改善に効果的な食べ物
便秘の改善には食物繊維をとることが大切です。
食物繊維の目安は1日20〜35g
食物繊維は体内で消化できない炭水化物の一つです。食物繊維は便のかさを増やし、水分を吸収することで、便を柔らかくして排出しやすくします。
便秘の人では食物繊維の推奨量は1日20~35gです。食物繊維は全粒粉のシリアル、玄米、野菜、柑橘系の果物に豊富に含まれます。惣菜を食べる際にも、パッケージにある栄養成分表に食物繊維のグラム数が書いてありますので、意識して摂取してださい。
約半数の方では、食物繊維を積極的にとりはじめると、ガスが発生してお腹が張ります。少ない量の食物繊維からとり始め、便通が改善するまでゆっくりと増やすようにすると、お腹の張りは少なくなります。
便秘改善が実証されている食べもの
キウイフルーツ・サイリウム(オオバコ)・プルーンは、排便回数を増やしたり便の硬さを正常にすると効果が実証されています。
日本人では、小麦よりも米や豆類由来の食物繊維が多く含まれる食事や、ヨーグルトなどの乳酸菌食品が有効と報告されています。ビオフェルミンなどの整腸剤で便秘が改善することがあります。
グアーガム分解物(PHGG)も効果的とされます。サプリメントとして購入することができます。
受診が必要!危ない便秘のサイン
要注意サインがある場合、便秘は大きな病気が隠れていることがあります。
便秘の要注意サイン!
- 急に便秘が悪化した
- 血便
- 心当たりがないのに、6ヶ月以内に3kg体重が減った
- 発熱
- 関節痛
- 50歳以上ではじめて便秘をした
- 大腸の病気(ポリープ・潰瘍性大腸炎・クローン病など)を以前に指摘された
- 両親や兄弟に大腸がんの人がいる
※赤字にあてはまる場合は精密検査が必要
便秘は原因によって一次性、二次性に分けることができます。
- 一次性便秘症
他に病気がないのに、腸の動きが悪くなっておこる便秘
例:機能性便秘症、過敏性腸症候群
- 二次性便秘症
病気やお薬が原因で、腸の動きや流れが悪くなっておこる便秘
例:薬剤性、糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、大腸がん、腸閉塞など
便秘がある人とない人では、大腸がんの発生割合は同じです。要注意サインがなければ、便秘があるからといって大腸がんを心配しすぎる必要はありません。
便秘の検査
要注意サインがあり、二次性便秘症が疑わしい場合は検査を行います。
血液検査、腹部X線、超音波検査をまず行います。大腸がんの可能性がある場合は大腸内視鏡検査を追加します。
便秘のお薬
食事や生活習慣を改善することが便秘を改善する第一歩ですが、それだけでは不十分な場合もあります。
腸の水分を増やす薬
膨張性下剤
腸の中で膨らみ、便の水分とかさを増やす薬です。便秘の原因が過敏性腸症候群のときに使います。ポリフル(ポリカルボフィルカルシウム細粒)が代表的です。
浸透圧性下剤
浸透圧性下剤(しんとうあつせいげざい)は、腸の水分の分泌をうながし、便を柔らかくします。いずれのお薬もクセになりづらいのが特徴です。
マグミットなどのマグネシウム製剤、ラクツロース、ビーマス(ジオクチルソジウムスルホサクシネート)、モビコール(ポリエチレングリコール)が該当します。
マグネシウム製剤を長期間使う場合は、定期的に血液検査を行うよう推奨されています。
粘膜上皮機能変容薬
難しい名前ですが、腸の細胞に働きかけて水分の分泌をうながし、便を柔らかくするお薬です。比較的新しいお薬で、アミティーザ(ルビプロストン)は2012年、リンゼス(リナクロチド)は2017年に登場しました。
他のお薬で効果が不十分な場合に用います。なお、アミティーザを妊娠中に使うことはできません。
腸の動きを活発にする薬
刺激性下剤
腸の神経を刺激をして、動きをうながすことで便を出します。センナ、センノシド、ダイオウ、ピコスルファートナトリウムが該当します。
便秘の薬としては最初に使うべきではなく、浸透圧性下剤の効果が不十分な場合に用います。
長期間使うと効き目が弱くなり、お薬を使わないと便がでづらくなることがあります。毎日使うのではなく、できるだけ時々使う程度にするのがオススメです。
その他
胆汁酸トランスポーター阻害薬
腸の動きを活発にし、水分の分泌を促す、2つの作用をもつお薬です。胆汁酸が小腸で吸収されないようにし、大腸に胆汁酸を流し込むことで効果を発揮します。グーフィス(エロビキシバット)が処方薬として使われます。
飲むタイミングが重要で、1日1回食事前に服用します。
便秘改善の効果は高く、色々な基礎疾患をもっている場合でも有効です。他のお薬で効果が不十分な場合に用います。
浣腸薬
浣腸は腸の動きを強く促して、便が出るのを助けます。効果が強く、すぐに排便を促したいときに使います。
連用していると効き目が弱くなったり、薬を使わないと便が出づらくなる場合があります。また、直腸を傷つけてしまうこともあるため、慎重に使う必要があります。
使用する際は決められた量を守ることが大切です。
漢方薬
漢方薬は便秘以外の症状に応じて使い分けます。大黄を含む漢方薬が代表的です。大黄の主成分はセンノシドという刺激性下剤です。長期間使用していると効き目が弱くなったり、薬を使わないと便が出づらくなる場合があります。
- 基本処方
- 大黄甘草湯(ツムラ84番)
大黄を多く含みます。甘みがあるため飲みやすい漢方薬です。
- 大黄甘草湯(ツムラ84番)
- いらいらを伴う場合
- 桃核承気湯(ツムラ61番)
大黄による腸の刺激作用と、芒硝による腸の中の水分量を増やす作用がある漢方薬です。女性で比較的体力があり、のぼせて便秘しがちな方に使います。 - 防風通聖散(ツムラ62番)
大黄による腸の刺激作用と、芒硝による腸の中の水分量を増やす作用がある漢方薬です。肥満体型で便秘のある方に使います。 - 調胃承気湯(ツムラ74番)
大黄による腸の刺激作用と、芒硝による腸の中の水分量を増やす作用がある漢方薬です。
- 桃核承気湯(ツムラ61番)
- 高齢者向け
- 潤腸湯(ツムラ51番)
大黄による腸の刺激作用とにくわえ、腸の水分の分泌を促す作用があります。 - 麻子仁丸(ツムラ126番)
甘草が入っておらず、血圧上昇のリスクが低い漢方薬です。麻子仁の油分が便をやわらかくし、大黄が腸の動きを促して作用します。特にコロコロした小さな便がでる方に使います。
- 潤腸湯(ツムラ51番)
- 腸の動きによる腹痛がある場合
- 桂枝加芍薬大黄湯(ツムラ134番)
腸の緊張をやわらげて、腹痛を改善します。便秘型過敏性大腸炎がある場合は、腹痛と便通の両方を改善する可能性があります。 - 桂枝加芍薬湯(ツムラ60番)
腸の緊張をやわらげて、腹痛を改善します。大黄を含まないため、効果・副作用ともにマイルドになります。
- 桂枝加芍薬大黄湯(ツムラ134番)
- お腹が張っている場合
- 大建中湯(ツムラ100番)
大黄を含まないため、効果・副作用ともにマイルドになります。整腸作用があり、便意を感じやすくなる効果があります。お腹が張っている方や、手術後の方によく使います。
- 大建中湯(ツムラ100番)
- 上腹部が張っている場合
- 大柴胡湯(ツムラ8番)
体力が充実して、みぞおちのあたりが苦しく、便秘のある方に使います。高血圧や肥満による肩こり、頭痛、神経症、胃炎などにも効果があります。
- 大柴胡湯(ツムラ8番)
参考文献
American Gastroenterological Association -American College of Gastroenterology. Clinical practice guideline for the pharmacological management of chronic idiopathic constipation 2023.
日本消化管学会. 便通異常症診療ガイドライン2023.
Eur J Clin Nutr. 2006;60:650.
J Expec Sci Fit 2021;19:158-165.
J Nurs Stud 2009;46:759-767.
Am J Gastroenterol 2005; 100:232-242.
投稿者プロフィール
- あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。
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