3人に1人が睡眠に悩みを抱えています。「眠れない」と内科を受診される方はとても多いです。

記事の要点

•「適切な睡眠時間」は個人差が大きい

• 睡眠不足で高血圧、心臓病、認知機能低下など体に様々な悪影響

• 睡眠の質は生活習慣の改善(8つ)で向上する

• 不眠症が改善しない、悪化するときは医療機関の受診を

※この記事は、2022年3月15日 旭丘会第一会館で行った講演内容を元に作成しています。

適切な睡眠時間は個人差・年齢差が大きい

睡眠のサイクルは年齢で変わります。乳児は1日の70%以上寝ていますが、成長ともに睡眠時間は短くなります。10代では夜更かしをすることが多くなり、昼間は眠気を感じることが多くなります。

社会人になると寝る時間・起きる時間はどちらも10代のころより早くなりますが、3人に1人は睡眠に問題を抱えています。高齢になるとさらに多くなり、半分で睡眠に何らかの問題を抱えるようになります。

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Sleep Foundationより引用

適切な睡眠時間は年齢で変わりますが、個人差が大きいです。薄い青色が許容範囲の睡眠時間、濃い青色が一般的に理想とされる睡眠時間を示しています。例えば65歳以上では、適切な睡眠時間は5~9時間とかなりばらつきがあります。

体と脳の休養に大切な睡眠

睡眠中に体で起きることは何でしょうか?

身体が成長する(子供の場合)、代謝の調整・肺や心臓を休める、夢を見る、記憶の整理が行われる、有害な物質を脳から掃除する、といったことが起きます。

The brain may clean out Alzheimer’s plaques during sleep

脳に「有害な物質」として、アミロイド、タウ蛋白が知られています。

アミロイド、タウ蛋白は記憶・集中力・精神状態など頭の働きに影響してアルツハイマー型認知症の原因になるだけでなく、転倒の危険性を増やすとされます。

睡眠はアミロイド、タウ蛋白を脳から掃除するのに大切な役割があります。

不眠症の症状と診断方法

不眠症の症状は、寝付けない、途中で起きる、早く目が覚めるの主に3つです。不眠が続くと日中の活動にも影響が出て、だるさ・眠気・いらいら・集中力の低下を感じるようになります。

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睡眠障害が続くと肥満になりやすく、体が休まらないので心臓の病気や高血圧となります。

さらに、気分が落ち込んだりイライラしやすくなります。

不眠が原因で気分が落ち込んだりイライラすることがありますが、元々気分の落ち込みやイライラがあって不眠となる場合があります。

不眠症の診断を医療機関で行う場合、当然ですがまず診察を行います。

甲状腺機能亢進症睡眠時無呼吸症候群、うつ病など、他の病気が隠れていないか確認します。

病気がないことを確認したら、睡眠日誌をつけてもらうことがあります。寝る時間、起きる時間、睡眠の質はどうだったか、カフェインや飲酒などの刺激物をとっていないか、睡眠に関係しそうな生活パターンを記録して、日常生活の中で寝られない原因がないか探します

※睡眠日誌の詳細は、国立精神・神経医療研究センターで確認できます。

詳しい検査として、睡眠生理検査(睡眠時無呼吸症候群で行うことが多いです)や血液検査を行うこともあります。

新型コロナ流行と不眠の関係

新型コロナの流行で3人に1人が睡眠障害を抱えるようになったと報告されています。

もちろん睡眠に影響しなかった人もいたのですが、女性・若年者・ストレスを感じやすい人は新型コロナ流行の影響を受けやすかったとされます。

睡眠をしっかりとることは免疫に重要です。

1日だけの睡眠不足でも炎症バイオマーカー、重要な免疫細胞であるリンパ球、ワクチンの抗体価に影響します。接種の前日にしっかり寝ておくと、もしかしたらワクチンの効き目が良くなるかもしれませんね。

長期間の睡眠障害が続くと、免疫機能全体に影響が出てきます。

新型コロナ流行中は「距離をとる」「外出しない」が強調されるため、孤独感を感じる人が多くなります。日本人の実に40%が孤独感を感じていたとされます。

孤独感は睡眠に悪影響があると知られており、孤独感を感じる人は、睡眠の質が低下する、寝付くまでの時間がかかる、夜中に目が覚めやすい傾向があります。

ご近所さんとの挨拶、友人との電話など、人と繋がりをもつことは睡眠にとても重要です。

不眠症を改善する8つの「睡眠衛生」

1. 刺激を避ける
カフェイン、アルコール、ニコチン、寝る前の運動といった刺激は寝つきが悪くなります。飲酒は一時的に眠くなりますが、睡眠の質が悪化します。

2. 定期的に運動する
  寝る前の運動と違い、日中の定期的に運動は睡眠の質を改善します。

3. 決まった時間に食事をとる
 決まった時間に食事をとることで、体のリズム(概日リズム)を整えます。夕食は夜中に空腹にならない程度にとってください。※寝る直前に食べると胃酸逆流症が起き、寝つきが悪くなることがあります。

4. 毎日同じ時間に寝る(週末も含めて)
週末の寝だめは健康的ではありません。同じ時間に寝て起きるのが心臓や健康に良いとされます。また、1時間以上の昼寝は寝つきが悪くなるのでなるべく避けましょう。

5. 十分な睡眠時間を確保する(少なくとも7時間)

6. 寝る前のルーティン
寝る前の読書や軽いストレッチといったルーティンがあると、テレビやスマホなどの刺激物・ストレスを避けることができ、寝つきがよくなります。

7. 部屋を暗く、静かに、涼しく、時計を置かない
 部屋の環境はかなり大切です。時計を置くと時間が気になって目が覚えてしまいます。

8. 寝るときや性交渉以外では布団に入らない
布団では食事・勉強・仕事などをしないようにします。

不眠症の治療法

生活習慣が改善しても不眠症が改善しない場合、症状が悪くなってきた場合は医療機関の受診が必要です。

処方薬は即効性があり、急な睡眠障害にはとても良い選択肢です。ただ、長期間使用していると効果が弱くなります。認知機能の低下や転倒のリスクが増える可能性も指摘されています。

薬局で購入できる薬は比較的依存しづらいですが、効果は弱く、使い続けているうちにやはり効きづらくなります。

認知行動療法は副作用がなく、治療に成功すれば効果が長く続きます。ただ、効果を実感するまで時間がかかるため、治療を受ける人に根気が必要です。心理士が治療を行いますが、対応できる医療機関は限られます。

投稿者プロフィール

明石 祐作 Yusaku Akashi, MD, PhD
あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。