手足のしびれには、脳卒中のようにすぐ対応が必要なものから、糖尿病やビタミン不足による末梢神経の問題、手根管症候群のような局所的な原因まで、さまざまな背景があります。この記事では、救急を考えるべきサイン、よくある原因の見分け方、受診の目安、当院でできる初期評価をやさしく整理します。
まず救急を考えるサイン
手足のしびれは多くの場合、すぐに命に関わるものではありません。ただし、F.A.S.T. ――顔・腕・言語・時間の確認――と呼ばれる症状が出た場合は脳卒中の可能性があるため、ためらわずに119番への連絡を検討してください。[1]
F.A.S.T.

脳卒中でよく見られる症状を以下にまとめます。
- 顔、腕、脚の片側のしびれや脱力が急に出た
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 片目または両目が見えにくくなった
- ふらつく、歩けない、立てない
- これまでにない強い頭痛を伴う
- 意識がおかしい、呼びかけに反応しにくい
片側の手だけ、口の周りと片手というような分布でも、脳血管障害を完全には否定できません。[1]
脳卒中を疑う症状が出た場合、数分で改善しても、そのまま様子を見ないでください。 一時的なしびれや脱力は、脳への血流が一時的に途絶えた状態(一過性脳虚血発作、TIA)の可能性があり、その後に脳卒中が起こるリスクが残ることがあります。改善した場合も、速やかに医療機関を受診することが重要です。[1]
呼吸が苦しい、ぐったりして水分も取れない、高熱が続く、急速に悪化するしびれや脱力、立てない・歩けない、筋力が急に落ちた、自律神経症状(血圧の急な変動・失禁など)を伴う場合も、当日中の受信を検討してください。
> 上記の緊急サインに当てはまらないしびれでも、数週間以上続く場合や徐々に悪化する場合は、当院で初期評価を行うことができます。
手足のしびれとは
「しびれ」は、感覚が鈍い、ビリビリ・ジンジンする、触れても分かりにくい、といった異常感覚を指します。人によっては「力が入りにくい」「脱力する感じ」と表現することもあります。[2]
しびれは手足そのものの問題というより、神経の通り道のどこかに負担がかかっているサインとして出ることがあります。脳、脊髄、末梢神経、あるいは糖尿病やビタミン不足のような内科的な背景まで、原因は一つではありません。「年齢のせい」「血行が悪いだけ」と一律に自己判断しすぎないことが大切です。[3]
手足のしびれでよくある原因の考え方
しびれの「どこに出るか」と「どのように広がるか」が、原因を絞り込む大きな手がかりになります。[2][4]

1. 片側に急に出たとき(脳卒中を疑う)
顔・腕・脚など体の片側に急なしびれや脱力が出た場合は、脳卒中・脳血管障害(脳梗塞・脳出血・TIA など)をまず考えます。[1] 片側の手だけ、足だけ、あるいは口の周りと片手という分布も、この範疇で評価する必要があります。
2. 左右対称に手足の先から広がるとき(手袋靴下型)
両手・両足の先がビリビリする、感覚が鈍い、という左右対称のしびれは、末梢神経が広く障害される「多発神経障害(多発ニューロパチー)」の特徴的な分布です。[5] 主な原因として次のものが挙げられます。
- 糖尿病性神経障害: 糖尿病の合併症として最も頻度が高い末梢神経障害の一つです。[5][3]
- ビタミン B12 欠乏: 菜食中心の食事、胃切除後、一部の薬(メトホルミンなど)の長期使用などで起こりやすく、血液検査で確認できます。[6][3]
- アルコール多飲: 長期にわたる過度の飲酒は末梢神経を障害することがあります。[5]
- 薬剤性: 一部の抗がん薬、抗菌薬などでしびれが生じることがあります。内服中の薬がある場合は診察時に伝えてください。[3]
- 免疫・炎症性疾患: 免疫の異常が神経を障害する場合もあり、血清蛋白免疫固定などの検査で評価することがあります。[6]
3. 片手・片足、または特定の領域に限られるとき(局在型)
特定の神経一本だけが障害される「絞扼性(こうやくせい)神経障害」や「神経根障害」のパターンです。[4]
- 手根管症候群: 手首のトンネル部分で正中神経が圧迫され、親指側の手のひらや指先がしびれます。夜間や起床時に悪化しやすく、手を振ると楽になることがあります。[3]
- 肘部管症候群: 肘で尺骨神経が圧迫され、薬指・小指側のしびれや握力の低下が生じます。[3]
- 頚椎症・腰椎椎間板ヘルニア: 首や腰の椎間板・骨の変化が神経根を圧迫し、腕や脚のしびれとして出ます。特定の姿勢で悪化する場合に疑います。[4]
4. 受診を急いだほうがよい場合
緊急の症状ではありませんが、以下に当てはまる場合は早めの受診が必要です。[7][3]
- 左右非対称なしびれや脱力
- 数日から数週間で急速に悪化している(急性・亜急性の経過)
- しびれより脱力・筋力低下が前面に出ている
- 血圧の急な変動、発汗異常、排尿障害などの自律神経症状を伴う
受診の目安

検査・治療の考え方

初期評価で行われる主な検査
しびれの原因を調べるために、当院では状況に応じて次のような検査を組み合わせて評価します。[6][7]
- 血液検査: 血糖・HbA1c(糖尿病の確認)、ビタミン B12 関連、甲状腺機能、腎機能、血清蛋白免疫固定(免疫異常の確認)など
- 神経伝導検査(必要時): 末梢神経の働きを電気信号で調べる検査で、障害の部位や程度を客観的に評価できます。神経内科への紹介が必要です。
- 画像検査(必要時): MRI などで脳や脊髄・脊椎の状態を確認します。
画像検査で必ずすべての原因が分かるわけではなく、検査の組み合わせと経過を見ながら判断することが多くなります。[6]
治療の方向性
治療は原因によって異なります。
セルフケア
- 長時間同じ姿勢を続けない、手首や肘への過度な圧迫を避けるなど、姿勢や動作の見直しが有効な場合があります。
- 糖尿病が背景にある場合は、食事・運動・体重管理が神経障害の進行を緩やかにする可能性があります。[5]
- ビタミン B12 欠乏が確認された場合は、食事内容の見直しや補充が行われます。[6]
薬物療法
- 神経障害に伴う痛みやしびれには、症状の程度に応じて薬が検討されることがあります。薬の選択は診察で相談してください。[3]
- 原因疾患(糖尿病・甲状腺疾患・免疫疾患など)がある場合は、その治療を適切に行うことが基本になります。[5][3]
専門治療
- 手根管症候群・肘部管症候群などの絞扼性神経障害では、保存治療で改善しない場合に手術が選択肢となります。[3]
- 免疫介在性の神経障害では、神経内科専門医のもとで免疫療法が行われることがあります。[3]
- 脳血管障害が原因の場合は、神経内科・脳神経外科での精査と治療が必要です。
当院で相談できること
当院では、手足のしびれに関する初期評価として、問診・診察、血液検査(血糖・ビタミン B12 関連・甲状腺機能など)を行うことができます。[7] 症状の分布や経過から、神経内科や整形外科など専門科への紹介が必要と判断した場合は、速やかに紹介状を作成します。
次のような場合にも、遠慮なくご相談ください。
- しびれが数週間以上続いている、または徐々に悪化している
- 血液検査の結果をどう解釈すればよいかわからない
- 内服中の薬がしびれに影響していないか確認したい
- 糖尿病や高血圧などの持病があり、しびれが新たに出てきた
参考文献
- [1] ガイドライン: https://www.cdc.gov/stroke/signs-symptoms/index.html
- [2] ガイドライン: https://www.neurology-jp.org/public/disease/shibire.html
- [3] PubMed PMID 38692778: Peripheral Neuropathy. / Primary care / 2024 Jun
- [4] ガイドライン: https://www.neurology-jp.org/public/disease/shibire_detail.html
- [5] PubMed PMID 26599185: Distal Symmetric Polyneuropathy: A Review. / JAMA / 2015 Nov 24
- [6] PubMed PMID 19086068: Evaluation of distal symmetric polyneuropathy: the role of laboratory and genetic testing (an evidence-based review). / Muscle & nerve / 2009 Jan
- [7] PubMed PMID 38268316: Earlier diagnosis of peripheral neuropathy in primary care: A call to action. / Journal of the peripheral nervous system : JPNS / 2024 Mar
投稿者プロフィール
- あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。
最新の投稿
- 2026年3月21日ブログ手足のしびれをわかりやすく解説|原因と受診の目安
- 2026年1月6日お知らせ全南病院閉院に伴う診療引き継ぎのご案内(木曜午前:稲垣医師)
- 2026年1月6日お知らせ送迎 新規受付中止のお知らせ
- 2025年10月31日お知らせ禁煙外来: バレニクリン(チャンピックス)の処方再開

