腹痛は単なる消化不良から早急な治療が必要なものまで、さまざまな病気が原因となります。お腹の中にはたくさんの内臓があり、そのどこかに障害がおこると腹痛をおこします。

腹痛の原因を正確に特定するのは、ベテランの医師でも難しいことがあります。また、詳しく症状の経過を聞き、身体診察を行い、精密検査を行い…と、診断がつくまで時間がかかることもあります。この記事では、病院の受診が必要な腹痛、腹痛で診察を受けるとき医師に知らせてほしいこと、腹痛の診察・検査の概要を解説します。

記事の要点

  • 大部分の腹痛は自然に改善
  • 病院受診が必要な腹痛の特徴を知るのが大切
  • 正確な原因特定には、患者さんの情報提供が必要

医療機関の受診が必要な腹痛

腹痛のほとんどは自然に治ります。ただし、以下のような症状がある場合、緊急での治療が必要な場合がありますので、早めに医療機関を受診してください。

すぐに受診が必要な腹痛

  • 歩くとお腹にひびいて痛い
  • 腹痛のため背中を丸めて休む
  • お腹を触ると硬くなっている
  • 急にでた強い腹痛(例:痛みがはじまって数分〜15分程度で痛みがピークに)
  • 痛みの波がない(強くなったり弱くなったりしない)
  • 徐々に悪化する
  • 嘔吐をくりかえす
  • 冷や汗や脂汗をかいている
  • 顔面蒼白
  • 呼吸が荒い

緊急性はないけれど・・・

2週間〜1ヶ月以上腹痛が続いて改善しない場合は、原因を調べるため病院の受診をおすすめします。

腹痛が軽くても下痢が1ヶ月以上続く場合は、炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)や甲状腺の病気などの可能性ないか、検査をおすすめします。

腹痛につかうお薬

腹痛に使用する痛み止めは複数ありますが、原因によって使い分ける必要があります。

市販の痛み止めも有効ですが、なかには状態が悪化しまうお薬もあります。薬を服用する前に、医師や薬剤師と必ずご相談ください。

腹痛の原因を知るため大切な情報

腹痛の経過や過去の病気などは、原因を知るための貴重な手がかりです。以下のような情報は、正確に医師に伝えることが大切です。

  • 腹痛の経過・部位
    腹痛の強さ・経過・部位について知ることで、原因を絞り込むことができます。
    • 右下腹:虫垂炎
    • 下腹部:腸・子宮・卵巣・睾丸・尿管の病気
    • 胃のあたり:胃かいよう・十二指腸かいよう・胆のう炎・胆石・膵炎・心筋梗塞など
    • 右上腹部:胆のう炎、胆管炎、肝臓の病気
    • 左上腹部:脾臓の病気・背中の方なら尿管結石
    • 全体:腸炎など

腹痛の部位とよくある病気

腹痛の部位とよくある病気の関係
  • 女性の場合
    妊娠の可能性、生理周期、おりものや性器出血、避妊方法などを確認することで、婦人科の病気を特定できる場合があります。
  • 過去の病歴
    過去の手術や治療が、現在の腹痛をおこすことがあります。例えば、過去の腹部手術によってゆ着が生じ、腸閉塞(ちょうへいそく)となる場合があります。
  • 薬の服用
    市販薬であっても、胃腸障害の原因となるものがあります。服用している薬はすべて医師に伝えることが大切です。
  • 旅行歴
    熱帯地方に滞在した方では、特殊な感染症(輸入感染症)の可能性があります。
  • 家族歴
    炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)やがんなどの発生に、遺伝が関与する可能性があります。
  • 周囲の流行状況
    同じような症状の人がいる場合、感染症の可能性が高くなります。

腹痛の原因を調べる検査

病歴(症状の経過)だけで診断がつく場合もありますが、腹痛の原因をくわしく調べるために追加で診察・検査を行うことがあります。

一般的な検査の流れ

一般的な検査の流れ

通常は体や経済的に負担の少ない検査から行います(緊急時を除く)

身体診察

  • 聴診
    腹部の音を聴くことで、腸の動きに異常がないか知ることができます。
  • 打診
    指でお腹をトントンと叩きます。腹水や腸内の空気を確認します。打診で強い痛みがある場合は、緊急での治療が必要な腹膜炎や婦人科の病気の可能性があります。
  • 触診
    腹部の痛む場所や臓器の大きさを正確に評価したり、腫瘍がないかを確認します。

血液検査・尿検査

  • 血液検査
    炎症反応(白血球・CRP)、貧血、肝障害(AST・ALT・ALP・γ-GTP・ビリルビンなど)などを調べます。
  • 尿検査
    尿潜血や尿白血球が陽性の場合、腎臓病・尿管結石・感染症の可能性があります。

画像検査

  • 超音波検査
    診療所でも可能な検査です。特に肝臓・胆嚢・腎臓の病気を調べるのに有用です。
  • CT検査
    入院や手術が必要な急性腹症を疑う場合、診断が難しい腹痛の精密検査で行います。
  • MRI検査
    肝臓・胆嚢・膵臓・胆管・子宮・前立腺を詳しく調べる場合に特に有用です。CT検査では病気の診断が難しい場合に行います。
  • 内視鏡検査
    胃や大腸の病気が疑わしい場合に行います。

まとめ

腹痛のなかには緊急の治療が必要な場合があります。特に症状が強い場合や長く続く場合は、適切なタイミングで医療機関を受診してください。

一方で、腹痛の大部分は自然に治ります。最初からたくさん検査が必要となることは少なく、医師は状況や疑う病気に応じて適宜検査を行います。

参考文献

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Dig Surg 2010; 27:422.
Scand J Gastroenterol 1994; 29:715.

投稿者プロフィール

明石 祐作 Yusaku Akashi, MD, PhD
あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。