楽しい海外滞在が、予期せぬ体調不良で台無しになってしまうことがあります。海外滞在を健康で過ごすため、実践的な予防策を掲載しました。以下のアドバイスが、旅行先によって必要な健康対策を理解し、適切に計画するための一助となれば幸いです。健康なままで、海外での滞在を最大限に楽しみましょう!
目次
海外滞在者のための健康チェックリスト
渡航前から帰国後まで、健康に過ごすためのオススメする対策をチェックリストにまとめました。
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渡航前の健康対策
渡航前に済ませておくこと
- 予防接種(国別の推奨ワクチン)
- 旅行保険の加入・加入証の持参
- 英語の診断書(持病のある方、妊娠中の方)
持参をおすすめするもの
- 普段飲んでいる薬 (機内に持ち込む、数日分多めに)
- 熱さまし、痛み止め、酔い止めなどの常備薬
- 虫よけ:DEET 20-30%
- 日焼け止め: SPF 15以上
- 手の消毒用アルコール
- アロエ軟膏:火傷・日焼け
- ばんそうこう、ガーゼなどの傷処置用具
- 衛生用品:生理用品、避妊用具など
- (渡航先による)マラリアの予防薬
- (渡航先による)高山病の予防薬
移動中の健康対策
時差ぼけの予防
- 食事は少なめに、アルコール・カフェインは避ける
- 目的地に着いたら日光を浴びる
- 大事なことは到着日に決めない (判断力の低下)
乗り物酔いの予防
- 車は前方、飛行機は翼上、船は中央に座る
- 遠方の景色を見る、目を閉じる
- 酔い止め (トラベルミン)の服用
足の血栓予防
- 通路側の席に座る
- こまめな水分補給
- 足の運動(運動方法の詳細:日本航空ホームページ)
滞在先に到着後の健康対策
交通事故の予防
- 白タクを使わない
- シートベルト・チャイルドシートを使用する
食中毒・下痢の予防
- 石鹸で手を洗う、水がないときは消毒液
- 飲料は密封された製品のみ
- 氷・生もの・サラダ・冷製料理・屋台料理・ビュッフェでは食べない
日焼けの予防
- SPF15以上
- 日光を浴びる20分前に塗る
- 2時間ごとに塗りなおす
- 6か月未満の子供はサンシェードを使用 (日焼け止めを塗らない)
虫よけ
- ディート(DEET) 20-30%
- 日焼け止めの後に塗る
- 肌の露出が少ない服装
- 2か月未満の子供には虫よけを使わない
- 寝るときは蚊帳の使用(空調がない施設・アフリカ)
帰国後の健康対策
以下のような場合は、医療機関の受診をおすすめします。必ず海外渡航について医師に伝えましょう。
- アジア・アフリカ・南米から帰国して30日以内の発熱
- 2週間以上続く下痢
- 発熱を伴う皮膚のかぶれ・痛み・虫刺され
虫刺され予防と対策
蚊やダニなどに刺されると、マラリア、ジカ熱、デング熱などの感染症に感染することがあります。一部は予防接種や飲み薬で防ぐことはできますが、虫に刺されないことが最重要です。
渡航先で虫による感染症が流行しているかは、こちらのページでも確認いただけます。
予防方法
おすすめの虫よけ製品
虫よけは、ディート(DEET) 20~30%、イカリジン15%、Picaridin 15%のいずれかをおすすめします。海外の蚊は人を積極的に刺すことが多いため、高濃度の虫よけが推奨されています。
虫よけは妊娠中や授乳中に使用しても問題ありません。
DEET30%は医薬品として扱われています。日本では小児(12歳未満)への使用は推奨されていませんが、海外では1歳以上なら安全に使用可能と推奨されています。
レモンを含んだハーブ・オイルの虫よけも販売されていますが、効果の持続時間が短くあまり推奨されていません。
虫よけのオススメの塗り方
- 日焼け止めを先に塗り、乾いた後に虫よけを塗ってください。
- 日焼け止めと虫よけの両方の成分を含む製品は避けてください(混ぜると虫よけの効能が落ちるため)。
- 服下の肌にはなるべく塗らないようにしましょう。
- 汗を書いたあとは塗り直しましょう。
- 段々と効果がうすれてきますので、5-8時間おきに塗り直しましょう。
子供に塗るときの注意
- 2か月未満の子供には虫よけを使用しないでください。
- 2か月未満の子供は、ベビーシートやベビーカーの上に蚊帳を取り付けてください。(プラスチックの縁があるものをお勧めします)
- 口に含んでしまうことがあるため、虫よけを子どもの手に塗らないでください。
- 虫よけを吸い込まないように、なるべく開けた場所で塗りましょう。
- 子どもの手が届かない場所に保管してください。
虫よけ以外の予防法
- 肌の露出を少なくする(長袖、長ズボン、帽子、靴下の着用、服の裾をズボンに入れる、ズボンの裾を靴下に入れる)
- 虫が部屋に入ってくる場所に滞在する際は、蚊帳を使用してください。アフリカの滞在や、アジア圏でも空調がない施設に宿泊する場合は蚊帳の使用をオススメいたします。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Counseling & Advice for Travelers. Protection against Mosquitoes, Ticks, & Other Arthropods.
高山病の予防と治療
高地では大気中の酸素濃度が低く、体が順応できないと高山病を発症します。高山病では2日酔いのような症状(頭痛、倦怠感、食欲低下、吐き気、嘔吐) が出ます。また、重症例では肺水腫(息切れ)、脳浮腫(意識障害や歩行困難)を合併することがあります。
短期間で高地 (特に2,750m以上)に移動すると、高山病を発症しやすくなります。発症しやすさには個人差があります。
以下のような高地は1日で登ると高山病を発症する危険があります。
- ペルー:クスコ (3,300m)
- ボリビア:ラパス (3,640m)
- チベット:ラサ (3,650m)
- 富士山 (3,776m)
予防方法
・体を低酸素の環境に慣らすため、可能な限りゆっくりと高度をあげる。
予防方法・予防薬
ダイアモックスを内服すると、体が高地に順応しやすくなります。ダイアモックスが使えない場合はデカドロンを服用します。
目的 | ダイアモックス | デカドロン |
---|---|---|
予防 | 高地へ行く前日から服用し、 到着してから2日間内服 ‣125mg(半錠)を12時間毎に服用 | ダイアモックスが使用できない場合 のみ使用。 ‣2mg(4錠)を6時間毎に服用 |
治療 | 250mg(1錠)を12時間毎に服用 | 4mg(8錠)を6時間毎に服用 |
注意事項 | サルファ剤やペニシリンに重度の アレルギーがある場合は要注意 ・まれに頻尿や手足のしびれ | ダイアモックスよりも治療効果が強い ・血糖値の上昇、興奮など |
薬の服用以外にも、
- 高度2,750m以上の高地に行くときは2日以上に分ける。
- 高地へ移動してから48時間は飲酒を避け、軽い運動のみ行う。
を意識すると高山病を発症する可能性が低くなります。
治療方法・治療薬
症状が軽い場合は鎮痛剤や吐き気どめを内服し、同じ高度で数時間休むことで改善する場合があります。
頭痛や嘔吐がひどい場合、300m以上高度を下げるか、ダイアモックスやデカドロンを内服します。予防で服用する場合と治療で服薬する場合では、用量が異なります(上表参照)。
息切れ、歩行困難、意識障害が出た場合は直ちに低い高度へ移動し、医療機関の受診が必要です。
※高山病の治療に酸素を用いる場合、1分間あたり2Lの流量の酸素を数時間吸入する必要があります。多量の酸素が必要となる一方、市販されている酸素缶は数Lしか入っていないため、治療効果は非常に乏しいと考えられます。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Self-Treatable Conditions. Altitude Illness.
時差ぼけ(ジェットラグ)対策と克服法
時差ぼけでは眠れない、だるい、集中できない、食欲がない、などの症状がでます。東方向へ渡航する場合や、高齢者では症状が悪くなりやすくなります。
予防方法
出国前
- 運動、健康的な食事、休息をしっかりとる。
- 出発の数日前から眠る時間を調節する。
東への渡航:1-2時間早く眠る、西への渡航:1-2時間遅く眠る
飛行機内
- 機内では食事は控えめにし、アルコールやカフェインは避ける。
- 水分をしっかりとる。
- 長時間のフライトでは、時々起きて機内を散歩する。
- 機内で睡眠をとる。
目的地に到着後
- 判断力が鈍っている可能性が高いため、到着初日に重要事項の決定を行わない。
- 現地時間にあわせて食事をとる。
- 日光を浴びる。
- 水分をしっかりとり、飲酒やカフェインは適量のみ接種する。
- 日中に眠気を感じる場合は、20-30分程度昼寝をする。
- 2日以内の滞在であれば、無理に現地時間にあわせる必要はありません。
治療方法・治療薬
目的地の睡眠時間にあわせてメラトニンのサプリメントを飲むことで時差ぼけは軽くなります。症状が強い方では数日分の睡眠薬(ロゼレムやデエビゴなど)を服用する場合もあります。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Self-Treatable Conditions. Jet Lag.
日焼けの予防
海外旅行では屋外で過ごすことが多くなり、紫外線をあびる時間が増えます。特に赤道付近の地域、夏季の地域、高地では注意が必要です。また、海やスキー場など、砂・雪・水がある場所では反射のため紫外線は強くなります。
予防方法
小さい子どもはひどい日焼けになることがあり、可能な限り日焼け止めの使用をお勧めします。
ただし、6か月未満の子どもは日焼け止めの使用がすすめられていないため、紫外線にさらされる機会をなるべく減らしてください。
日焼け止めのぬり方
- SPF15以上の日焼け止めを使う
- 日光を浴びる20分前に、露出部分すべて塗る(耳・頭・唇・首・手や足の甲なども忘れずに)
- 2時間ごとに塗りなおす
- 多量の汗をかいた後や、水から出た後も毎回塗りなおす
- 日焼け止めを先に塗り、乾いた後に虫よけを塗る (逆にすると虫除けの効果が減弱)
- 1-2年前の日焼け止めは使用しない
日焼け止めは機内持ち込みに制限がありますので、詳しくは↓のウェブサイトをご覧ください。
その他の日焼け予防法
- なるべく影がある場所に留まる(特に午前10時から午後4時)
- 紫外線を防ぐ衣類の着用
- つばの広い帽子をかぶり、顔・頭・耳・首が露出しないようにする
- 水分補給をこまめに行う
- UVA・UVBの両方を防ぐサングラスをかける
- 渡航前に日焼け止めマシンを使わない(より日焼けがひどくなる可能性があります)
治療方法・治療薬
日焼けが強いと皮膚の痛み・頭痛・発熱などの症状がでます。日焼けは火傷と同じ状態のため、重症の場合は治療が必要です。日焼けをした場合は以下のような対応を行ってください。
- 痛み止め(薬局で購入可)の内服
- 水分補給をこまめに行う
- 日焼けした部位を冷水で冷やすか、濡らした冷たい布をあてる
- 保湿剤やアロエを塗る
- 日焼けがよくなるまで日光を浴びない
- 水ぶくれは潰さないよう、ばんそうこうやガーゼで保護する(潰すと感染や治りが悪くなる可能性)
以下のような場合、医療機関の受診をお勧めします。
- 体表面積の15%以上の日焼け(本人の手のひらの広さが約1%)
- ひどい脱水、38度以上の発熱、ひどい痛みが2日以上続く
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Counseling & Advice for Travelers. Sun Exposure.
食中毒・下痢の予防と対策
海外では衛生環境が不十分な場合があり、特にアジア・中東・アフリカ・中央アメリカ・メキシコは胃腸炎のリスクが高いとされています。
下痢の他、A型肝炎・腸チフスなどに感染することもあります。
予防方法
こまめに石鹸で手を洗い、なるべく手を口に近づけないようにしてください。渡航先によっては、腸チフスやコレラの予防接種をお勧めいたします。
なるべく食べたり飲んだりしないほうがよいもの
なるべく加熱したものを食べるのが、下痢しないコツです。フルーツや野菜はおいしそうですが、生で食べると下痢のリスクになります。
食べ物
比較的安全なもの
- 加熱調理をして熱いうちに提供された料理
- 密封パッケージの食品
- よく加熱された卵
- 自分で洗浄し皮をむいた果物(食べる直前に皮をむくと安全)
- 殺菌処理された乳製品
避けたほうがよいもの
- 常温に冷めた料理(ビュッフェなど)
- 屋台での食事
- 生卵や半熟卵
- 氷やアイスキャンディー(水道水で作っている場合があるため)
- サラダ(水道水で洗っているため)
- 洗っていない・皮をむいていない果物や野菜
- サルサソースなど生の調味料
- 殺菌処理されていない乳製品
- 野生動物の肉(サルやコウモリなど)
飲み物
比較的安全なもの
- 密封されたボトル入り飲料(水・ソーダ・スポーツドリンクなど)
- 加熱やフィルターなどで殺菌処理された水
- ボトルに入った水や殺菌処理された水で作られた氷
- 熱いコーヒーやお茶、殺菌処理された牛乳
避けたほうがよいもの
- 水道水
- 井戸水
- 飲水器の水
- 氷(レストランで提供された氷でも水道水で作られている事があります)
- フレッシュジュース
- 殺菌処理されていない牛乳
治療方法・治療薬
積極的に水分補給を行ってください。
下痢止めは高熱や血便、強い腹痛などがない場合に使用可能です。
ひどい下痢の場合は抗生物質を使用する事があります。抗生物質は症状が出てすぐ飲むほうが効果が高くなるため、日本か抗生物質(クラリスロマイシンなど)を持参し、下痢が始まったらすぐに飲む場合もあります。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Self-Treatable Conditions. Travelers’ Diarrhea.
乗り物酔い予防と対策
子供(特に2~12歳)、女性、片頭痛持ちの方、妊娠中の方は、乗り物酔いを起こしやすくなります。
予防方法
- 車やバスでは前方に、飛行機では翼上の近く、船では中央に座る。
- 目を閉じる、遠方の景色を見る。
- ミントやラベンダーのアロマを使う。
- 生姜を含んだ飴を食べる。
- 水分をこまめにとる。
- 食事は少なめにとる。
- アルコールやカフェインは避ける。
予防薬
トラベルミンを服用します。薬局での市販薬、処方薬はどちらも同じ効能です。副作用で眠気や口の乾きを感じる場合があります。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation. Self-Treatable Conditions. Motion Sickness.
スキューバダイビングと潜水病(減圧症)
喘息、糖尿病、精神疾患、心疾患など持病がある方は注意が必要です。特に、てんかんを起こしたことがある方、妊娠中の方のダイビングは危険です。ダイビング中に持病の状態が悪化した場合、重大な事故に繋がりますので、必ずかかりつけの医師とご相談ください。
特に基礎疾患がない場合でも、気圧や水圧の変化により、潜水病(減圧症)を発症する可能性があります。
潜水病(減圧症)の症状
耳・副鼻腔
耳抜きがうまくいかないと、耳の痛み・耳鳴り・めまい・耳や鼻が詰まった感じ・難聴などの原因になります。息を強くこらえて耳抜きをすると、症状がより悪化する事があります。
肺
潜水している間は圧縮された空気を吸っているため、急激に海面に上がると肺が過膨張します。そのため、海面に上がる前に息を吐いて肺を小さくしておく必要があります。肺が膨らみすぎて破れると、空気が漏れて全身の様々な部位に入りこみ、重篤な合併症を起こすことがあります(気胸や動脈ガス塞栓など)。
動脈ガス塞栓
海面に上がる途中で過膨張した肺が破れ、空気が血管の中に入った場合、全身の血管が空気で詰まってしまいます。脳や神経の血管が詰まった場合、脱力・しびれ・めまい・意識の悪化などが起こります。発症した場合は直ちに医療機関の受診が必要です。
減圧障害
潜水中に体に吸収された窒素は、海面に上がると気泡となって血管の中に溶けだします。気泡で血管の中が詰まり、様々な症状(関節痛・しびれ・脱力・意識障害など)を起こします。発症した場合は直ちに医療機関の受診が必要です。
ダイビング後の飛行機搭乗
ダイビング直後に飛行機に乗ると潜水病(減圧症)の発症リスクがあがります。飛行機への搭乗は、
- 1回のみのダイビングであれば、海面に上がってから12時間以上
- 複数回のダイビングであれば18時間以上
経過してからをおすすめします。
参考資料
CDC The Yellow Book. Chapter 2. The Pre-Travel Consultation Counseling & Advice for Travelers. Scuba Diving.
投稿者プロフィール
- あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。
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