この記事では漢方薬の基礎的な内容について解説します。
当院では漢方薬の治療も積極的に取り組んでおります。
記事の要点
- 漢方薬と西洋薬をあわせて使うと効果的
- ほとんどの漢方薬はゆっくり効く
- 漢方薬は効くまで色々な種類を試すのが大切
- 副作用に注意が必要な漢方薬もあり、定期的な診察が重要
- 味や匂いが苦手でも、工夫すると飲みやすくなる
目次
東洋と西洋の医学を合わせた漢方内科
日本の漢方医学は中国から伝わった後、江戸時代に日本独自の医学として発展しました。西洋医学だけでは改善しなかった症状が良くなる場合があり、現代医療にも貢献しています。
漢方治療は西洋医学との併用が可能であり、症状や診断によって両方の治療法を組み合わせることで、効果がより高くなります。当院の漢方治療はすべて保険適用の範囲内で行い、患者さんの健康と生活の質を向上させることを目指します。
漢方薬の効果と安全性
普段の薬では効果がなかった場合でも、漢方治療で症状が改善する場合があります。西洋の薬、漢方薬どちらかにこだわらず、適切に併用すると最も効果が高くなります。
科学的根拠(エビデンス)
漢方薬は多くの場合、生薬と呼ばれる植物や動物、鉱物などの成分が含まれています。漢方薬は昔から使われており、効果を実感する人が多くいたことから、科学的な評価はあまり行われてきませんでした。しかし、最近になり漢方薬の効果は科学的に明らかになりつつあります。詳しくは日本東洋医学会の漢方EBMで記載されていますが、多くの病気や症状での有効性が実証されています。
漢方薬が効きはじめるまでの期間
漢方薬は個々の体質や症状に合わせた処方が行われるため、効果が表れるまでの時間は患者さんごとに異なります。一般的には、数日から数週間程度で効果が現れることが多いですが、持病や体質によっては数ヶ月かかることもあります。ただし、風邪のひき始めに用いられる葛根湯、こむらがえりに使う芍薬甘草湯、めまいや頭痛に使う五苓散など、飲んですぐに効果を実感できる漢方薬もあります。
最初の漢方薬ではあまり改善しないことがあるため、効果がない場合は色々と処方を変えて試してみることが大切です。
注意が必要な副作用
漢方薬は天然素材を使用しているため、長期間服用しても副作用は比較的少ないとされます。多くの漢方薬は長期間服用しても問題ありませんが、お薬ですので副作用がでることもあります。特に甘草、黄芩、サンシシ、附子が含まれる漢方薬を長期間使う場合は注意が必要です。
甘草は高血圧(正確には偽性アルドステロン症状)、黄芩は肝障害や間質性肺炎、サンシシは腸の障害(腸間膜静脈硬化症)、附子では神経麻痺症状がといった副作用が起こる場合があります。長期間継続する場合は定期的に診察し、副作用がないか確認しながら服用します。
長期投与しない漢方薬:葛根湯(1番)、麻黄湯(27番)、芍薬甘草湯(68番)など
妊娠中・授乳中の漢方薬
科学的なアプローチで妊娠中・授乳中の副作用を評価した研究は、残念ながらほとんどありません。ただ、昔から使われてきた経験で、日本の保険診療で使われる漢方薬は大きな問題なく服用できるとわかっています。
妊娠中は一部の漢方薬は慎重投与とされています(福岡県薬剤師会のホームページを参照)。一般的な使用では通常問題ありませんが、症状が改善したら別のお薬に変更するなど、できる限り短期間の服用とします。
授乳中は禁忌になる漢方薬はありませんが、大黄や麻黄を含む漢方薬は注意が必要です。大黄は赤ちゃんの下痢、麻黄は赤ちゃんの興奮やほてりをおこすことがあります。麻黄湯(27番)、麻杏甘石湯(55番)、葛根湯(1番)、小青竜湯(19番)を服用するときは、摂りすぎないよう注意します。
ツムラ・クラシエ・コタローの違いは?
ツムラ、クラシエ、コタローはいずれも日本の製薬会社で、漢方薬の製造販売を行っています。それぞれの企業で独自の品質管理や製法が採用されており、薬の効果や品質に違いがあることがあります。ほとんどの場合は実感できるほどの差はありませんが、同じ名前の漢方薬でも製造元によって効き目に差が出ることもあります。
漢方薬の飲み方とコツ
服用するタイミング
漢方薬の服用タイミングは、一般的に空腹時や食前が適しているとされます。しかし、強い根拠があるわけではないため、飲み忘れた場合は食後に飲んでも通常は問題ありません。食後服用のほうが胃に掛かる負担が少ないため、胃腸が弱い方では食後の服用へ変更することもあります。
ただし、食後は薬剤の吸収が早くなるため、附子剤(ぶしざい)は食前の方が安全と考えられています。
他の薬との飲みあわせ
漢方薬はほとんどの場合、西洋医学の薬と併用することができます。ただ、小柴胡湯(9番)とインターフェロンなど一緒に使えない薬もありますので、飲み合わせについては必ず医師とご相談ください。
漢方薬が苦手で飲みにくいとき
漢方薬の味は苦手な方も多いですが、オブラートに包むと飲みやすくなります。粉薬がどうしてもだめな人は、錠剤やカプセルが処方できる場合もあります。
ココア、コーヒー、オレンジジュース、ポカリスエット、牛乳などと一緒に服用することで、味を和らげることができます。あらかじめ少量のお湯にしっかりと溶かすと、他の飲み物に混ざりやすくなります。水以外の飲み物と一緒に飲むとお薬の吸収に影響することもありますが、飲み続けるのが一番大事です。漢方薬を続けることが難しい方は試してみてください。
こんな症状に効果的です
とても多くの症状に対応できる漢方薬。漢方薬が効果的な症状・病気と処方例の一部を掲載します。
更年期障害
更年期は女性のホルモンバランスが変化し、イライラ、不眠、のぼせ、冷え性、動悸などの症状がでます。イライラやのぼせは、ホルモン薬や抗うつ薬、抗てんかん薬が有効です。副作用が心配な場合は漢方薬から治療を開始します。
加味逍遙散(24番)が最もよく処方されますが、効果がないときは女神散(67番)や桂枝茯苓丸(25番)などに変更します。当院は女性医師が在籍しておりますので、女性ならではの悩みも安心して相談いただけます。
冷え性
冷え性に適用のある西洋薬はなく、漢方薬がとても役立ちます。完全に治すのは難しいので、漢方薬で冷え性が楽になることを目標にします。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38番)を最初に使うことが多いです。お腹も含めて全身が冷えるときは真武湯(30番)、顔がのぼせて首から下が冷えるときは加味逍遙散(24番)、五積散(63番)が選択肢になります、
むくみ
心不全や腎障害など、むくみの原因となる原因をさがし、利尿剤や生活指導(足を上げる、弾性ストッキングなど)を行います。漢方薬としては体の水分を外に出す作用がある、柴苓湯(114番)、五苓散(17番)、猪苓湯(40番)をよく処方します。
膝や腰の痛み
筋力トレーニングや湿布が症状の改善に有効です。漢方薬を併用する場合、長く続く腰の痛みには疎経活血湯(53番)、関節の痛みには防已黄耆湯(20番)や越婢加朮湯(28番)を使います。
片頭痛
片頭痛の発作中は、鎮痛剤(アセトアミノフェン、ロキソニプロフェン、ジクロフェナク)とトリプタン系薬の服用が必要です。詳しくは片頭痛の解説記事をご覧ください。
片頭痛の予防目的には呉茱萸湯(31番)、五苓散(17番)をよく使います。その他、桂枝人参湯(82番)、釣藤散(47番)、葛根湯(1番)をよく使います。
肥満・ダイエット
減量で最も大切なのは食事・運動療法です。その他、減量効果が確かめられている治療薬は以下の通りです。
- GLP-1受容体作動薬: 2023年現在ではセマグルチド (商品名: ウゴービ) が保険適用
- SGLT-2阻害剤: 糖尿病がある場合のみ保険適用
- ビグアナイド: 糖尿病がある場合のみ使用
- 減量手術: 胃の一部を切除する手術
減量を助ける漢方薬としては、防風通聖散(62番)は白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞を活性化し、脂肪燃焼効果を発揮するとされます(Int J Obesity. 1995;19: 717-722.)。便秘傾向があり、お腹が出ている場合が最も良い適応です。
便秘があり、ストレスやお腹の上部が苦しい感じがある場合は大柴胡湯(8番)を使います。便秘がなく、むくみやすい場合は防已黄耆湯(20番)を使います。
いずれの漢方薬は気軽に試しやすいですが、飲むだけでは絶対に痩せません。痩せるためには、食事の制限や運動を一緒に行う必要があります。
鼻炎・アレルギー
アレルギー性鼻炎には、一年中続く通年性と特定の季節だけの季節性の2種類があります。通年性アレルギーの主な原因はハウスダストです。一方、季節性アレルギーはスギやヒノキなどの花粉症が代表的です。どちらのタイプでも、水のような鼻水が出ます。
漢方薬では麻黄附子細辛湯(127番)や小青竜湯(19番)などがよく使われます。漢方薬のみで症状を抑えることは難しい場合も多いですが、西洋薬(抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、ステロイド点鼻薬)との併用で効果を高めることができます。詳しくは花粉症の解説記事をご覧ください。
風邪
かぜやインフルエンザなどの初期で体力のある方では、解熱や発汗を促すため麻黄湯(27番)や葛根湯(1番)を用います。麻黄湯(27番)は発熱して顔が赤い人、葛根湯(1番)は発熱しているがやや寒そうな顔をしている人によく使います。体力が消耗している方で、発汗している場合は桂枝湯(45番)を用います。
風邪を引いて数日が経過し、食欲不振などの症状が出た場合は小柴胡湯(9番)などの柴胡剤を処方します。その後も全身倦怠感、食欲不振が長く続く場合は、人参と黄耆が入っている補中益気湯 (41番)などを用います。その他には風邪でよく使う漢方薬は以下の通りです。
真武湯(30番):風邪で新陳代謝が落ちている時に用います。めまい、むくみ、下痢、冷えなどの症状が起こっている時に効果があります。
香蘇散(70番):うつ傾向や神経質な人がよい適応になります。桂枝湯が効きそうな人で、シナモンが服用できない場合に使います。
参蘇飲(66番):発症から少し日数が経過してから使います。発汗、解熱、吐き気止め、下痢止め、消化促進と幅広い作用を持っています。麦門冬と杏仁が入っていないため、咳止めの作用はやや弱くなります。
竹筎温胆湯(91番):風邪をひいた後微熱・咳・痰が長く残り、不眠傾向がある体力中等度の人に用います。不眠がある場合は帰脾湯、不眠と動悸がある場合は桂枝加竜骨牡蛎湯を併用します。
五苓散(17番):下痢を改善するため、お腹の風邪(胃腸炎)によく使います。
便秘
便秘薬の詳しい解説はこちらの記事を参照してください。
- 基本処方
- 大黄甘草湯(84番)
- いらいらを伴う場合
- 桃核承気湯(61番)
比較的体力があり、のぼせて便秘しがちな方に使います。 - 防風通聖散(62番)
肥満体型で便秘のある方に使います。 - 調胃承気湯(74番)
大黄による腸の刺激作用と、芒硝による腸の中の水分量を増やす作用がある漢方薬です。
- 桃核承気湯(61番)
- 高齢者向け
- 潤腸湯(51番)
- 麻子仁丸(126番)
甘草が入っておらず、血圧上昇のリスクが低い漢方薬です。コロコロした小さな便がでる方に使います。
- 腸の動きによる腹痛がある場合
- 桂枝加芍薬大黄湯(134番)
- 桂枝加芍薬湯(60番)
- お腹が張っている場合
- 大建中湯(100番)
大黄を含まないため、効果・副作用ともにマイルドになります。整腸作用があり、便意を感じやすくなる効果があります。お腹が張っている方や、手術後の方によく使います。
- 大建中湯(100番)
- 上腹部が張っている場合
- 大柴胡湯(8番)
体力が充実して、みぞおちのあたりが苦しく、便秘のある方に使います。高血圧や肥満による肩こり、頭痛、神経症、胃炎などにも効果があります。
- 大柴胡湯(8番)
投稿者プロフィール
- あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。
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