貧血は健康診断などで偶然発見され、症状がない場合もありますが、放置しておくと心不全や腎障害などの内臓損傷を引き起こす可能性があります。原因を特定して治療することが大切です。

鉄分不足が最も多い貧血の原因です。本記事では、鉄分不足による貧血(鉄欠乏性貧血:てつけつぼうせいひんけつ)に焦点を当てて解説します。

貧血は鉄分不足以外にも多くの原因があり、正確な診断には詳細な検査が必要なため、医師との相談が大切です。

貧血は鉄分不足が大多数

体の中の鉄分が不足すると赤血球内のヘモグロビンを作れなくなり、貧血となります。ヘモグロビンは体に酸素を運ぶタンパク質で、赤血球を作るのに欠かせません。

成人の鉄欠乏性貧血の主な原因は、

  • 出血
  • 食事から鉄の吸収ができない

のどちらかです。

後ほど詳しく述べますが、鉄分不足となる代表的な理由には、生理の出血が多い、妊娠、がん、胃や腸からの出血などがあります。

貧血はどうやって診断するの?

貧血は血液検査で診断します。赤血球の数が少ない場合に貧血と診断します。

貧血の診断:最初の血液検査

  • ヘモグロビン(Hb)
    赤血球内の酸素を運ぶタンパク質。貧血の診断では最も正確。
    正常値:男性 13.5~17.6 g/dL、女性 11.3~15.2 g/dL
  • ヘマトクリット(Hct)
    血液中の赤血球の割合。ヘモグロビンが信頼性が高いとされます。
    正常値:男性 39.8~51.8%、女性 33.4~44.9%
  • 赤血球数
    血液1マイクロリットル(リットルの100万分の1)の赤血球数。
    正常値:男性 427~570 万/μL、女性 376~500 万/μL

体内の鉄が不足すると(鉄欠乏)ヘモグロビンが作れません。ヘモグロビンの量が減少すると、作られる赤血球の数が少なくなり、形も小さくなります。

鉄欠乏の症状は人によって異なります。鉄欠乏になると、貧血がなくても症状を引き起こすことがあります。体の中に鉄分不足になってすぐに貧血になるのではなく、しばらく時間がたってから貧血となります。

鉄欠乏性貧血の症状と身体のサイン

鉄欠乏性貧血では症状が出ないことも多いですが、以下のような症状がないかチェックしてみてください。

だるい、頭痛、疲れやすい、イライラする、息切れ、不眠症、眠気、爪がぼろぼろになる、舌が痛い、むずむず足症候群(夜間に多い足の違和感・しびれ・痛み)、異食症(粘土や土、紙製品など非食品を食べたくなる)、氷をとても食べたくなるなど、多彩な症状がでます。

急速に貧血が進んだ場合は、立ちくらみが出て目の前が真っ暗になったりかすむこともあります。

貧血では眼瞼結膜(がんけんけつまく:目のフチ・まぶた)や手相の線が白っぽくなることもあります。ただ、かなり進行した貧血でも色が変わらないことがあるので、血液検査は診断に必須です。

貧血の身体症状
かなりの貧血でも所見がない場合があります。

鉄欠乏性貧血の原因

鉄欠乏性貧血の原因は、出血(最多)と食事から鉄の吸収低下の大きく2つに分けられます。

出血吸収の低下
月経過多
ピロリ菌の感染
胃潰瘍胃炎(様々な原因)
妊娠・出産胃の手術後
悪性腫瘍炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)
胃、小腸、大腸からの慢性的な出血
頻回の献血
鉄欠乏性貧血の二大原因

出血で血が失われる

女性では月経過多が貧血の原因で最多です。生理中、昼でも夜用ナプキンが必要な場合は月経過多の可能性があります。月経過多は子宮筋腫や子宮内膜症などが合併していることがあるため、まず婦人科にご相談ください。

妊娠中は、胎児と胎盤の発育に通常の5〜6倍の鉄が必要になり、鉄が不足することがあります。特に妊娠初期は40%近くが鉄不足とされます。また、出産時の出血も鉄欠乏の原因となります。

男性・女性ともに多いのは、消化管(胃、小腸、大腸)からゆっくりと出血が続いておこる貧血です。イカ墨のように便が黒く、タール状になることがあります。長期間痛み止め(アスピリン、NSAIDs: ロキソニン、ボルタレン、イブプロフェンなど)を長期間飲んでいると胃潰瘍になりやすくなります。特に40~50歳の方や高齢者では、胃や腸からの出血を疑った場合、消化管の癌がないかを慎重に検査する必要があります。

こんな色の便が出たら要注意

鉄分が吸収できず、血が作れない

食事から鉄を摂取しても、胃や腸の病気があるとうまく吸収できない場合があります。

自己免疫性胃炎など様々な原因の胃炎、ヘリコバクターピロリ(H. pylori)の感染、胃の手術、炎症性腸疾患がある場合などは、十分な量の鉄が吸収されずに鉄欠乏性貧血を起こす可能性があります。

鉄欠乏性貧血の血液検査

貧血の原因を詳しく調べるたには、病歴や症状を確認し、さらに血液検査を追加します。

貧血の原因を調べる血液検査

  • 血算
    赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリットに加え、血小板、白血球の数を測定します。
  • フェリチン
    鉄を貯蔵するたんぱく質で、体の中に貯蓄されている鉄分量の目安になります。
    正常値:男性 13~277 ng/mL、女性 5~152 ng/mL
  • 血清鉄
    血液中の鉄の量を測定します。食事や治療に影響を受けるので、やや正確性に欠けます。
    正常値:男性 58~188 μg/dL、女性 48~170 μg/dL
  • 総鉄結合能(TIBCまたはトランスフェリン)
    血液中の鉄を運ぶたんぱく質(トランスフェリン)の量を測定します。赤血球や貯蔵細胞に鉄を運びます。
    正常値:男性 245~402 μg/dL、女性 235~432 μg/dL

1. 血算 — 赤血球(RBC)数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Hct)、赤血球のサイズ(MCV: 平均赤血球容積)、赤血球ごとのヘモグロビン量(MCH: 平均赤血球血色素量)、赤血球に含まれるヘモグロビンの割合(MCHC: 平均赤血球血色素濃度)、白血球、血小板を測定します。

鉄欠乏性貧血の人では、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットが低くなります。時間が経つと、赤血球の大きさやヘモグロビン量を示すMCVとMCHの値も小さくなります(小球性低色素性貧血ともよばれます)。

鉄欠乏性貧血では、白血球は影響を受けませんが、血小板は増加することがあります。

2. フェリチン — フェリチンは鉄を貯蔵するたんぱく質で、鉄欠乏になると減少します(鉄欠乏以外では下がりません)。

フェリチンが高い場合は解釈が難しくなります。体内の鉄分の量とは関係のない、リウマチ性疾患や感染症などの慢性的な炎症であがることがあります。

3. 血清鉄 — 血液中を循環する鉄分の量で、測定結果は鉄剤や食事によって影響を受けることがあります。体内の鉄貯蔵量を測定する方法としては信頼性に欠けます。

4. 総鉄結合能(TIBCまたはトランスフェリン) — 血中の鉄を赤血球や貯蔵細胞に運ぶたんぱく質(トランスフェリン)の量を測定します。体内の鉄貯蔵量が減ると、総鉄結合能(TIBCまたはトランスフェリン)が増加します。

5. トランスフェリン飽和度(TSAT) — トランスフェリンに結合している鉄の量を測定します。この数値は血清鉄を総鉄結合能で割って計算します。

鉄欠乏ではトランスフェリン飽和度が低くなります。血液検査の直前に食事を取ると血清鉄が上昇し、トランスフェリン飽和度も高くなることがあります。そのため、空腹時(一晩食事を摂らない状態)に検査することがあります。

鉄欠乏性貧血の治療法

鉄欠乏性貧血の原因を見つけて治療し、同時に鉄分を補うことで貧血を改善します。

貧血に良い食べ物

鉄欠乏の予防には普段の食事が重要です。1日あたりに必要な鉄分の量は、女性の場合18~64歳(月経がない日)は6.5 ㎎、65歳以上は6.0 ㎎です。男性の場合、18~74歳で7.5 ㎎、75歳以上で7.0 ㎎です。

ただ、貧血がある場合は重度の鉄不足です。新しく赤血球を作るためには、この量では全く足りません。1日の食事 (2000キロカロリー)には約10 mgの鉄が含まれますが、お薬での治療は1日に200-300 mg(1錠100 mg)ほど摂取します。食事だけで貧血を治療するのは難しいです食品ごとの鉄分量を最後に掲載しています)。

鉄分が多い食べ物としてレバー、ほうれん草、プルーン、チョコレートなどがありますが、いずれも必要量をとるのはとても大変です。

食事中の鉄分量
食事中の鉄分量

鉄剤 - 飲み薬

ほとんどの人で安全に使え、効果的な治療です。妊娠中でも問題なく使用できます。治療期間は6ヶ月以上かかります。

治療を始めた後は定期的に血液検査を行い、お薬の効果を確認します。

薬の種類と効果の違い

フェルムカプセル、フェロ・グラデュメット、フェロミア(クエン酸第一鉄Na)、液体のインクレミンシロップがよく使われます。

効果はどの薬剤でも変わりませんが、飲み方や剤形の好みで使い分けます。

インクレミンシロップは便秘・下痢・吐き気などの胃腸症状が比較的出づらいです。

効果を高める飲み方

  • 隔日(例えば月、水、金曜日)で摂取すると鉄分が吸収されやすくなります。
  • 一部の食品や薬は鉄分の吸収を邪魔することがあります。
    紅茶、コーヒー、カルシウムサプリメント、または牛乳と一緒の摂取は避けてください。鉄剤の内服前は1時間以上、内服後は2時間後以上の時間をあけてください。胃薬を飲む場合は、鉄剤の2時間以上前か4時間以上後に服用してください。

便秘・下痢・吐き気を減らす方法

鉄剤を飲むと約3割の方で便秘・下痢・吐き気などの胃腸症状がでます。また、黒い便が出ることがあります。副作用が出た場合は以下のことを考えます。

鉄剤の副作用を減らすコツ

  • 内服の間隔を一日おきにする
  • 食事や牛乳と一緒に飲む・・・治療効果は落ちる場合があります
  • 鉄剤の量を減らす、シロップにする
  • 便秘薬や整腸剤を使う
  • (内服を続けるのが難しい場合)点滴の薬に変える

鉄剤 - 点滴

飲み薬が副作用で続けられない、すぐに鉄分を補給したい、胃腸の病気で飲み薬の効果が少ない、胃の手術後、妊娠中期から後期、などの場合に点滴を行います。

フェジン(連日投与可)やフェインジェクト(週1回投与)がよく使われますが、効果は同等です。いずれも投与しすぎて、鉄過剰にならないよう注意して使います。

点滴は早く投与すると吐き気、点滴部の痛みや腫れが出やすくなるため、少なくとも数分以上かけてゆっくり投与します。

重度の場合は輸血も・・・

ほとんどの場合で輸血は必要ありません。ヘモグロビンが7 g/dL未満と重度の貧血があり、血圧の低下や心不全がある人に限定されます。

鉄欠乏性ほとんどの人は、鉄の吸収を低下させるか出血を引き起こす基礎疾患がない限り、鉄のサプリメントは必要ありません。

おまけ:食品中の鉄分含有量

鉄分が多い食品をリストにしました。他にも気になる方は、食品成分データベース(文部科学省)をお調べください。

食品名(100g)鉄分含有量 (mg)
豚レバー(生)13
鶏レバー(生)9
赤貝(生)5
牛レバー(生)4
牛肉(生・赤身)2.8
めざし(生)2.6
砂肝(生)2.5
まいわし(生)2.1
かつお(生)1.9
まぐろ(生・赤身)1.8
レンズ豆(全粒・ゆで)4.3
納豆3.3
小松菜2.8
枝豆2.7
ひじき(鉄釜・ゆで)2.7
厚揚げ2.6
サラダ菜2.4
そら豆2.3
水菜2.1
ほうれん草(生)2
ほうれん草(ゆで)0.9
プルーン(生)0.2
プルーン(乾燥)1.1
ホワイトチョコレート0.1
ミルクチョコレート2.4
アーモンドチョコレート2.8

投稿者プロフィール

明石 祐作 Yusaku Akashi, MD, PhD
あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。