咳の大部分はカゼですが、長く続く場合は色々な原因を考える必要があります。前半に咳ついて簡単な説明を、後半に詳しい説明をのせています。
目次
肺の病気以外でも咳は出る
咳受容体と呼ばれる神経が刺激されると咳が出ます。咳受容体は、頭からへその上まで体のさまざまな場所にあります。
肺の病気の以外にも、煙・ほこり・冷たい空気などを吸い込むと咳受容体が刺激されて、咳がでることがあります。
「どれくらい長引いているか」で異なる咳の原因
咳は始まってからの期間で、急性(3週間未満)、亜急性(3~8週間)、慢性(8週間以上続いて咳が止まらない)の3つに分けられます。
■急性の咳(3週間未満の咳)
急性の咳のほとんどは風邪が原因です。3日目から5日目に段々と良くなり、通常は14日以内に治ります。風邪をひいている人は、鼻づまり、鼻水、のどの痛みを感じることもあります。
他の原因には、花粉やガスなどの刺激物の吸い込み、喘息の発作、肺炎や心不全などがあります。
■亜急性の咳(3~8週間の咳)
多くはウイルスによる気管支炎が原因です。百日咳や、喘息、副鼻腔炎(鼻水が気管に垂れ込む)などでも起こります。自然に治ることもありますが、咳が悪化する場合は医療機関の受診が必要です。
■慢性的な咳(8週間以上続く咳)
急性の咳と亜急性の咳は、大部分が風邪の延長であり自然に治ります。一方、8週間以上咳が続くときは様々な原因が考えられ、検査や治療が必要な場合があります。咳が長引くにつれ、感染症が原因である可能性は小さくなります。
慢性の咳には、例えば以下のよう原因が考えられます。
- 鼻炎や副鼻腔炎
- アレルギー
- 結核などの感染症
- 喘息の治療が不十分
- 喫煙
- 逆流性食道炎(胃の内容物が食道に逆流し、気管に入る)
- 内服薬(ACE阻害剤など)
咳を長引かせないために禁煙はとても重要です。
症状や経過を確認し、必要に応じて血液検査、胸部レントゲン、呼吸機能検査などを行います。
受診が必要な要注意サイン
咳は自然に良くなることが多いですが、以下のような症状がある場合は医療機関を受診する必要があります。
要注意!
- 咳をすると血を吐く
- 咳をすると胸が痛んだり、息苦しい
- 咳をすると吐く
- 原因不明の体重減少がある
- 百日咳にかかった人と接触した後に咳が始まった
- 咳が8週間以上続く
- 咳が悪化してきた
- 喘息など肺の持病があり、咳が続くとき
咳の治療法は原因によって様々
治療法は咳の原因によって異なります。
- 感染症
肺炎や百日咳などの細菌感染症は、抗生物質で治療します。インフルエンザは抗インフルエンザ薬(タミフルなど)で治療します。風邪など他のウイルスが原因の場合は、抗生物質は効果がありません。 - 副鼻腔炎・鼻炎(後鼻漏)
アレルギーをおさえる薬や鼻のスプレー薬(ステロイド)などで治療します。鼻うがいも有効とされています。 - 喘息・肺気腫
気管を広げる吸入薬やステロイドの吸入薬で治療します。 - 逆流性食道炎
胃酸を抑える薬を使います。 - ACE阻害剤(血圧を下げる薬)
別の種類の降圧剤に変更すると、速やかに改善します。
後半は詳細な説明です。前半よりもかなり詳しい内容になります。
長い期間続く咳の詳しい説明
慢性の咳の原因は90%が鼻水の垂れ込み、喘息、胃酸の逆流
8週間以上続く咳の原因は、以下の3つが90%を占めるとされます。
慢性咳の3大原因
- 鼻水が気管へ垂れ込む(後鼻漏:こうびろう)
- 喘息
- 胃からの酸の逆流
感染症、内服薬、肺の病気が原因となることもあります。
鼻水の気管への垂れ込み(後鼻漏)
垂れ込んだ鼻水がのどが刺激して咳がでます。特に横になると鼻水が垂れ込みやすくなるため、夜間に多いとされます。
鼻水はアレルギー、風邪、鼻炎、副鼻腔炎などが原因となります
鼻づまり、のどの奥に痰が絡んだような感じ、のどの渇きといった症状を伴うこともあります。
喘息
喘息は成人の慢性の咳の原因では2番目に多いとされます(小児では1番多い原因)。
咳以外にも呼吸がぜいぜい(喘鳴:ぜんめい)したり息切れが出ることもあります。咳が喘息の唯一の症状である「咳喘息」と呼ばれる状態もあります。
喘息に特徴的な咳は、
- 季節によって良くなったり悪くなったりする
- カゼを引くといつも長引く
- 寒くて乾燥した空気で出やすい
- 煙や香りにさらされると悪化する
などがあります。
胃酸の逆流
胃からの酸が食道に逆流し、気管に入ることで咳が出ます。多くは胸焼けや口の中にすっぱい感じがするといった症状を伴いますが、咳だけの症状の人もいます。
その他の原因
慢性の咳の原因となる病気は他にも数多くあります。
ACE阻害剤の使用
高血圧の治療に用いられるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤と呼ばれる薬は、患者さんの最大20%で慢性の咳を起こします。痰のない乾いた咳が出ます。他の薬に切り替えると、通常は1~2週間で咳が改善します。
慢性気管支炎・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・肺気腫
長い気管にわたり気道が刺激され、炎症のため粘液が過剰に作られた状態です。痰がからんだ咳が出ることが多いとされます。喫煙が原因となることがほとんどです。
肺がん
肺がんが原因で咳が出ることもありますが、慢性の咳をしている人の中で肺がんにかかっている人はほとんどいません。しかし、特に喫煙者で、咳が急に変わった、血を吐いた、禁煙後1か月以上経っても咳が続く、といった場合には肺がんの検査を受けたほうがよいとされます。
アトピー咳嗽(がいそう)
アトピーをもつ中年女性に多く、のどにイガイガした感じを伴います。乾いた咳が夜間や早朝にでることが多いとされます。呼吸器検査は正常で、喘息のような異常所見はありません。
慢性の咳の原因を調べるには?
症状と診察の結果をふまえ、詳しく検査せずに治療を始めることがあります。治療によって症状が改善した場合、通常は追加での検査は必要ありません。治療で改善しない場合は、更に検査をすることがあります。
- 肺のレントゲン(X線)検査・CT検査
タバコを吸っていたり、肺の病気がある場合に行います。 - 呼吸機能検査
喘息を疑う場合に行います。肺を出入りする空気の流れを測定します。 - 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)
食道の炎症の有無を調べたり、食道の生検を行うための検査です。逆流性食道炎の診断を確定するため、食道内のpHを測定する検査が行うこともあります。
様々な治療を一つずつ試し、効果を見て原因を探る
それぞれの治療法を一つずつ試し、治療への反応を見ながら原因を探っていきます。
- 鼻水の気管への垂れ込み
鼻水が原因の咳は、鼻腔用(鼻スプレー)や経口の抗ヒスタミン薬、鼻腔用ステロイドを使用して改善する場合があります。
抗ヒスタミン薬は様々な市販の風邪薬に入っていますが、眠気や目・鼻・口の乾燥といった副作用が出ることがあります。 - 咳喘息
喘息と同様の治療を行います。吸入ステロイド、気管支拡張剤などを使います。 - 逆流性食道炎
プロトンポンプ阻害剤(PPI)と呼ばれる胃薬を使いますあります。咳が改善するまでに8週間以上かかる場合もあります。また、以下のような生活習慣の改善で良くなることがあります。- 脂肪が多い食事、チョコレート、コーラ、赤ワイン、酸味のあるジュース、過度のアルコールなどを避ける。
- 横になる2~3時間前に食事をしない
- ベッドの頭側を15~20 cm高くする。
- 肥満の場合は減量する
- 禁煙
- アトピー咳嗽
喘息の治療薬である気管支拡張薬は効果がありません。アレルギーの薬やステロイドを使って治療します。 - 咳止め
原因ごとに有効な治療法は異なりますが、咳止めを同時に使うこともあります。- デキストロメトルファン(メジコン)
咳の反射を抑えるの有用とされます。 - リン酸コデイン・フスコデ
メジコンよりも強力ですが、眠くなることがあります。また、呼吸抑制やひどい便秘の原因となることもあるため、使用には注意が必要です。 - 麦門冬湯
気管支炎や肺気腫の咳などを抑える効果があります。
- デキストロメトルファン(メジコン)
参考文献
Chest 2014; 146:885.
Chest 2016; 150:1341.
Chest 2016; 149:27.
Eur Respir J 2020; 55.
American Thoracic Society. Patient Education. Cough.
咳嗽に関するガイドライン第2版.
投稿者プロフィール
- あかし内科クリニック(大阪府柏原市)の副院長です。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医、救急科専門医、医学博士。診療所から大病院まで、色々な医療機関で研鑽してきました(現在も継続中)。「最初に何でも相談できる医者」を理想とし、日々診療しています。
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